大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1918号 判決

本籍並住居

岐阜県高山市総和町一丁目五〇番地

自動車運転者

正己こと

白川正美

大正六年二月二日生

本籍

名古屋市中村区大日町二〇〇一番地

住居

岐阜県高山市花里町六丁目四九番地

会社取締役

澤田利一

明治四四年一月二一日生

本籍並住居

岐阜県高山市名田町二丁目七五番地

山稼

中井正太郎

明治三七年三月一九日生

本籍

岐阜県益田郡高根村大字中之宿三七九番地

住居

同県高山市森下町二丁目七二番地

家畜商

中林信治

明治二四年二月一日生

右に対する常習賭博各被告事件について昭和二五年七月一九日名古屋高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人及び被告人中井、同中林の原審弁護人安井万次から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人白川正美弁護人牧野良三、同新家猛の上告趣意第一点について。

しかし、「カブ」と俗に称する賭博が偶然の事実によつて勝敗が決する博戯であることは顕著の事実であるばかりでなく、原判決は「第四被告人白川正美は………前示カブ………」と判示しているのであるから、右判示は、判示第一の一の被告人堀川顕一についての判示と同じく、「被告人白川正美は………金銭を賭し、花札を使用してカブと称する賭銭博奕をした」旨を判示しているものに外ならないこと明白である。されば、右原判示はたとい「カブ」と俗に称する博奕の方法内容を仔細に判示しなくとも、花札の使用による偶然のゆえいに関し財物の得喪を争うものであることを判示したものと理解することができるから、賭博の判示としていささかも欠くるところがないといわなくてはならぬ。それ故原判示には所論のような理由不備の違法は存しない。

同第二点について。

しかし賭博常習者というのは賭博を反覆累行する習癖を有する者の義であつて、必ずしも所論のような職業的な賭博、いわゆる博奕打ち又は遊人或いは定職があつても専ら勝負事に耽つて、半職業化したような特殊な存在をいうものでないことは当裁判所屡次の判例とするところであつて、今なおこれを変更する必要を認めない。そして原審は被告人白川正美が賭博罪によつて高山区裁判所で昭和二〇年四月一四日と同二一年七月一二日とにそれぞれ罰金刑に処せられ、更に同年一二月中頃から同二二年一月中頃迄に約一〇回に亙り本件賭博罪を犯したという事跡に鑑み被告人白川正美をもつて賭博を反覆累行する習癖を有する者と認定したのであるから、原判決には所論のような法令の解釈適用を誤つた違法は認められない。論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし賭博常習の罪は反覆累行した数個の賭博行為をそれぞれ独立の一罪とするのでなく、包括して賭博常習罪の一罪とするのであるから、原判示の程度に賭博常習の事実を判示するにおいては所論のように賭博常習罪の構成要件たる事実の判示を遺脱しているものとはいえない。されば原判決には所論の理由不備又は判断遺脱の違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人中井正太郎、同中林信治弁護人新家猛の上告趣意第一点について。

論旨の理由のないことは被告人白川正美の弁護人牧野良三、同新家猛の上告趣意第一点について説明したところで明らかである。

同第二点について。

論旨は原判決はその判示第九の事実として被告人中井正太郎は昭和二一年一二月中頃、二回に亙り前示松井太郎方において賭銭博奕をした旨判示しているが、その挙示する証拠によれば、被告人中井正太郎が賭博した時期は同年一一月中旬と下旬頃であり、その回数は一回だけであることが認められるから、原判決は虚無の証拠によつて事実を認定した違法があるし、その違法は判決に影響を及ぼすものであるから、原判決は破棄を免れないというのである。しかし被告人は原審公判廷において所論摘示のごとく、裁判長の問に対し「其の通りやつたことは間違いないが私は一回やつた心算です」と答え、昭和二一年一二月中頃二回に亙り賭博をしたことを認めたものと解されるから、原判決がこの原審公廷における被告人の供述と原判決挙示の被告人中林信治に対する司法警察官の聴取書とを綜合して、所論の判示事実を認定したからといつて、所論のように虚無の証拠によつて事実を認定した違法のものとはいえない。また、所論犯行の時期の点については、原判決は被告人の右供述を措信したものと解されるから、この点についても違法は認められない。論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし、原判決は単に六回と判示しないで約六回と判示しているのであつて、その判示事実の認定は原判決挙示の各証拠を綜合してこれを肯認することができるし、その間反経験則の違法も存しない。また、原判決は、その挙示の原審における被告人の供述、第一審における被告人の供述、小笠原助左衛門に対する司法警察官の供述記載の外、被告人堀川顕一に対する司法警察官の聴取書中の被告人中林信治が昭和二一年一二月初旬高山市花里町菅沼作五郎方にて松井太郎等と花札を使用して「カブ」と称する賭博をした旨の記載等を証拠としたものであるから被告人中林信治の自白のみを証拠として判示事実を認定した違法も存しないから、論旨は理由がない。

被告人澤田利一の上告趣意について。

論旨は事実審たる原裁判所がその裁量権内において適法にした事実の認定と刑の量定とを非難するものであるから、上告適法の理由とならぬ。

よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官三堀博関与

(裁判長裁判官 澤田竹治郎 裁判官 眞野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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